きみといつまでも……(sample)


 「よかったなぁ、嫁さんが有名人で。ここへ堕ちた者は必死でペリカを貯めて外出券を購入するか、奇跡的に生き延びて返済を終えるか以外、仮に一時でも地上へ出ることはかなわないってのに」
 裏カジノで沼勝負に挑み……結果、すべてを失い敗れたカイジと遠藤。
 カイジといえば精神的に強制労働施設よりはるかにつらい、地底男娼館で働くこととなり、遠藤はこの男娼館の事務や男娼の管理のようなことはするが、基本的にいうなればカイジのヒモのような状態である。
 さて、カイジが客を取る間、雑務的な仕事を片付けているところで、地底男娼館の統括マネージャー的役割の黒服に呼び出されてみれば、世間話半分の口調でそんなことを言われた。
 「…まぁあれだ。自分が矢面に立つのはどうしても嫌だってんなら、あんただけはとりあえず免れる。その分あのガキが、犬やらヘタすると馬やらを相手にすることになりそうだがな」
 もともとあまり遠藤が気に食わなかったらしいこの黒服の、イヤミ皮肉混じりのだらだらした話を要約すれば、外部から営業を兼ねた仕事の要請。カイジだけでなく、遠藤も同行の上、要は本番ショーをやれということらしい。
 『よかったなぁ』などと言われても、遠藤はまったくその言葉どおりに受け取れない。
 自分が晒し者になる……それも心の黒雲の一部ではあるが、今ですら監視用カメラであの老人…いや、ともすれば不特定多数の人間の、酒の肴となっているのだ。羞恥心がないといえば大嘘であるが、カイジ一人だけに重い荷物を負わせ続けるよりはいい。
 それより問題なのは…
 やっとあいつは安定してきたってのに…
 いいことか悪いことかと問われれば、地上ならば悪いことの方にカテゴライズされることだろう。
 ただ客に体を投げ出し、感じていようがいまいが、適当に喘ぎ、ほぼ事務的にテクニックを駆使…本当に心を無くし、そのための人形そのものになってしまったようなカイジ…唯一、多少人間らしさを取り戻すのは遠藤の腕の中だけ…
 覇気もなく、ただ日々をやり過ごすだけの日々…地上でも無為の日々を送りがちなカイジではあったが、現在とまったく意味合いが違う。
 かつての自堕落は結局、自分が『自由』の中から選んでしまった日常。現在は選びたくとも選べず、逃げ場もなく、ただ朽ち果ててゆくのを待つだけの時間。心がゆっくりと呼吸を止めてゆく…
 それでも……結末が同じならば、緩やかに朽ちてゆく方がまだマシだ。
 地上の客はいわば『観光客』。ゆえに料金設定はペリカの支配する地下王国のそれより、ずいぶんと高く設定されている。もっとも日本円で考えれば、普通の風俗店の相場より、いささか安上がりなのではあるが…そんなものだから外部との接点ができれば、地上の客を取る機会も増えて、稼ぎにはなる。
 仕事の翌日は完全にオフ…食事もパーティーの余り物になるが、それでも強制労働施設配給の食事より、当然はるかに豪華。さらに希望なら、会場となる施設の一室で宿泊してきてもかまわない……とかいう、確かにこの地獄の民から見れば夢のような待遇だが、遠藤にとってはありがたくない。
 地上となれば、カイジは脱走を企てるかもしれない。
 希望が見えれば無茶をする。
 希望は絶望と紙一重……それでもカイジは足掻くだろう。ずたずたに引き裂かれても、光がある限り目をギラギラさせて、壊れるまで……



【続きはアンソロでどうぞ】






 なにやら文章のセンテンスが長くて黒い絨毯のよう…どこまでサンプルで区切って良いのか自分でもわからなくなりました(アホです)
 アンソロでは縦書き2段組なので、多少読みやすいかと思います。
 そしてまたしても地下…総受の時と同じく、なにやら出張しております…